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<コラム>離婚伝説 【MAJ】受賞、そして「紫陽花」のヒット――“ラジオ”から存在感を広げる彼らの独自性とは



コラム

Text:柴那典

 離婚伝説が本格的なブレイクを果たそうとしている。

 メジャーデビューは2024年3月。その前から“気鋭のニューカマー”として注目を集めてきた彼らが、いよいよ“J-POPのメインストリームを担う存在”としてステップアップを果たそうとしている。そのきっかけとして脚光を浴びているのが最新曲「紫陽花」だ。

 TBS系火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』の主題歌として書き下ろされ、4月9日に配信がスタートした「紫陽花」。ドラマの盛り上がりとともに話題を広げ、『CDTVライブ!ライブ!』への出演も反響を集めたことで、この曲への注目度が徐々に高まっていった。6月3日にドラマの最終話が放送された後も熱量は冷めることなく、6月18日公開のBillboard JAPAN“Heatseekers Songs”チャートでは3週連続で首位を獲得した。


 ただ、この状況をきっかけに離婚伝説のことを知ったリスナーは、「紫陽花」でのブレイクを、いわゆる「ドラマ主題歌タイアップ型のヒット」としてだけしか捉えられないかもしれない。もちろんそれは事実である。しかし離婚伝説に関してより重要なファクトは、彼らが早耳のリスナーによって発見され、ラジオの力によって世に押し上げられたアーティストである、ということだろう。

 2020年代のヒットチャートを巡る状況においては、ニューカマーのブレイクはTikTokなどショート動画のバイラルヒットから生まれることが中心だ。音楽メディアのプッシュよりもアルゴリズムのレコメンドのほうがバズに寄与する。オーディション番組発のグループなど、デビュー時点から強固なファンダムを形成する例も少なくない。どちらにしても、ラジオから火がついたアーティストは長らく生まれていない。

 そんな時代の中で、離婚伝説は、アルゴリズムではなく、楽曲自体の力がじわじわとリスナーに侵食し、ラジオを筆頭に熱い思いを持った“音楽好き”のメディア関係者が薦めることによって支持を広げヒットを手にしたアーティストだ。

 2022年に活動を開始した松田歩(Vo.)と別府純(Gt.)によるバンドである離婚伝説。彼らが最初に注目を集めたのは、2022年6月にYouTubeで公開された自身初の楽曲「愛が一層メロウ」の口コミがきっかけだ。リリース時にも一部の早耳リスナーの間で話題となったが、2023年からラジオでのオンエアをきっかけにその認知が着実に広がっていく。2023年初頭に放送された音楽番組『EIGHT-JAM』の人気企画「プロが選ぶ年間マイベスト」への選出やSpotifyの次世代アーティスト紹介プログラム『RADAR: Early Noise 2024』への選出も後押しとなった。


愛が一層メロウ / 離婚伝説


 2024年3月には初のフルアルバム『離婚伝説』をリリースしメジャーデビュー。以降の楽曲も評価を集め、アーティストとしての支持を広げていく。“Heatseekers Songs”チャートには、〈ラジオから聞こえる歌はいっそセレナーデ〉という歌詞も印象的なアルバム収録曲「あらわれないで」が登場(最高位は2024年4月10日公開チャートでの13位)。さらに「本日のおすすめ」(最高位は2024年7月17日公開チャートでの9位)、「まるで天使さ」(最高位は2024年9月11日公開チャートでの11位)とリリース楽曲が続けてチャートインを果たす。これらの楽曲のチャート成績の特徴は、ラジオ指標が抜きん出ていること。まさに2024年の離婚伝説は“ラジオ発”のブレイクを果たしていったわけである。



あらわれないで / 離婚伝説


 なかでも代表曲「愛が一層メロウ」はその象徴となった。各ラジオ局が1か月間集中的に特定の楽曲をオンエアする“パワープレイ”によるオンエア回数の増加ではなく、全国の様々なラジオ局の番組やDJによって長期間にわたりオンエアされ続けたことによって、じわじわとリスナーに浸透していった。


 その結果として、同曲は2025年5月に開催された日本最大級の国際音楽賞【MUSIC AWARDS JAPAN 2025】において、「ラジオ特別賞 (Best Radio-Break Song)」を受賞。この賞は、DJ、パーソナリティ、ディレクター、プロデューサーなど全国約1,000名のラジオ関係者が“シーンをアップデートする革新性を持った楽曲”に対して贈るものだ。


 受賞に際して松田は「『愛が一層メロウ』という曲は、僕たちふたりが初めて完成させた離婚伝説の始まりの曲でもあり、自宅から発信していた曲がまだ行けていない地域にも(ラジオを通して)届いているかと思うと感慨深い」とコメント。またラジオに対する思いとして「最近はSNSが普及して、手軽に音楽を聴けたりエンタメ作品に触れたりできるなかで、ラジオは人の気持ちや温かさを乗せて曲を届けてくれる。何ものにもかえがたい媒体です」と語った。



 では、なぜ離婚伝説は「ラジオ発のブレイク」を果たしたのか。無論、その中核に離婚伝説の楽曲自体の魅力があるのは間違いない。ルーツである70年代のソウル・ミュージックやAORのテイストを日本語のポップソングとして昇華した音楽性が持ち味の彼ら。ロマンティックな楽曲の世界観、洗練されたメロディ、心地よいグルーヴ、松田の甘い歌声が多くの人を惹きつけている。


 加えて、ここ最近になってラジオのメディアパワーが見直されている、ということも言えるだろう。radikoが普及したことでスマホ以降のデジタル環境に適応したことも大きい。


 ラジオ番組の選曲には、アルゴリズムによる最適化のレコメンドと違い、知識と情熱を持ったDJや選曲家という“人”が介在する。彼らが自身の感性で選び、文脈や背景と共に届ける音楽は、アルゴリズムへの対抗軸としての“人間味あふれるキュレーション”として機能する。松田が言う「人の気持ちや温かさを乗せて曲を届ける媒体」というのはそういう意味合いだ。


 また、数秒から数十秒で消費されるショート動画のコンテンツと対照的に、ラジオではアーティストのルーツや楽曲制作の裏側などをじっくりと深掘りしたり、アーティストがパーソナリティとなって自身の音楽的な嗜好を伝えていったりするようなこともできる。ハッシュタグを活用したSNSとの補完関係もある。ラジオ番組のリスナーとパーソナリティがSNS上で親密なコミュニティを形成する例も多い。


 つまり、今の時代のラジオは“拡散”よりも“信頼関係の構築”に適したメディアと位置づけることができる。こうしたメディア特性がラジオの再評価に結びついているとも言えるだろう。2025年4月30日公開の“Heatseekers Songs”で同チャート2連覇を達成したBILLY BOO「ラプソディ」など、ラジオのパワープレイから飛躍のきっかけを掴もうとしているアーティストは他にも徐々に登場しつつある。


 離婚伝説のブレイクは、こうした点からもとても興味深い現象と言えるだろう。



紫陽花 / 離婚伝説


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